金川 欣二:マックde記号論(言語学のお散歩)


 

笑説 越中語大辞典



●を

 昔の辞書は「愛」から始まって「女」(をんな)で終わる、といわれた。

 ある民放テレビから「『小さい“お”』ってどうしていうのですか?」という質問を受けた。その時は「よく分からないが、教育現場から出ているのでしょう」と答えたのだが、よくよく調べてみると「小さい“お”」という教わり方をしているのは富山県だけであった。京都の学生で「小さい“お”」というのがいたので事情を聞くとお母さんが富山出身で、まさに教育の賜物なのである。

 他県の学生を調べてみると、もちろん「小さい“お”」というのは何を指すか分からない(「小さい“お”」というと「ぉ」がある)のだが、「難しい“を”」とか「わ“を”んの“を”」とか「下の“を”」とか「ひっかけ“を”」「鍵の“を”」とか「くっつき“を”」(名詞がくっつくから)とか習っていた。

 富山テレビの調査では「“お”でない“を”」と習っているところもある。うちの子供は「うぉ」と習っていたが、そんな風に発音すると子供が間違う可能性もある。もちろん、昔は「うぉ」と発音していたし、方言によっては「うぉ」を残している地域もある。間寛平が「を」を「『うぉ』という字やな」と話していたことがあったが、寛平の出身の高知では「を」「ゐ(うぃ)」がまだ発音されている(確か、司馬遼太郎の『竜馬が行く』に出てくる)。

 教育現場ではちゃんと区別して教えなければならないが、教え方は地方によってこのように教え方が異なっているのである。【以上、再録】

 余談だが、電報などで使われた「和文通話表」では「をわり(尾張)の“を”」としていた。「ヰ【ゐ】」は「井戸の“ヰ”」、「ヱ【ゑ】」は「かぎのある“ヱ”」である。

 富山出身の方言学者・真田信治は「オコト点」から来ているとするが、首肯しがたい。

 


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