金川 欣二:マックde記号論(言語学のお散歩)


 

笑説 越中語大辞典



●朔日饅頭【ついたちまんじゅう】

 6月1日、山王祭の日に食べると1年の御利益があるというので売り出される饅頭。特に竹林堂の酒饅頭は人気がある。漆間元三は『富山大百科事典』(北日本新聞社)の中で「富山市では朝早くから八〜十四歳ぐらいの男児が『まんじょーや まんじょ まんじょいらんけ』と言いながら振り売りして歩く光景が見られた」「富山市や黒部市、新湊市、大門町では若者宿があったころ、娘たちに配る風習が長く続いた」とある。各地にあった朔日饅頭が次第にすたれていく中、富山市で残ったのは日枝神社の祭礼と結びついているからだ。

 6月1日を「氷の朔日」あるいは「煎り菓子盆」といって、正月の餅で作った凍り餅(“こんもち”)を食べ厄除けとする習慣は一般的だった。これは天皇が氷室の氷を臣下に分け与える「氷の節会」が民間に伝播したものと考えられている。漆間元三は「その年にとれた麦で饅頭を作り神仏に供えた」とも書いているが、麦を挽いてうどんにして食べる「麦振る舞い」という習俗もあった。加賀のヒムロ(氷室)、ヒムロノツイタチ(氷室の一日)、イリガシマツリ(煎り菓子祭り)、能登地方のオンノキバ(鬼の牙)、ハガタメ(歯固め)、イリガシボン(煎り菓子盆)などがこれに相当する。旧暦の6月1日なので、新暦で7月1日に行われることも多い。

 衣替えの日でもある6月1日は季節の変わり目として重要だったからだろう。

●つーつ

 「風船」で僕は使わない。

●つかえん

 富山の代表的な方言。「差し支えない」から「OK」の意味。例:「この鉛筆、使っていいですか?」「なん、つかえんちゃ」「ダメなんですか?」「だから、つかえんいうとるがいね」「どうして、これくらいの鉛筆をけちるんですか、使わせてよ」「だから、つかえんいうとるがいね。あんたもしつこいねぇ」【と永遠に議論が終わらない】。

●つかつかっと

 「ずんずんと、ずかずかと」。例:「つかつかっとでっかぁならっしゃった」(いつの間にかぐんぐんと大きくなられた)。

●月極【つきぎめ】駐車場

 大阪のように「モータープール」とはいわない。金沢駅前に「モータープール」があったが、全体的にある訳ではないだろう。

●つくねる

 「積み重ねる」。例:「服ぅ、つくねたきりにして、かたづけんかいね」(服を重ねたままにしておいて、片づけなさいよ)。

●つくねんと〜つくなんと

 「つまらなさそうに」。例:「何、つくねんと座っとるがいね」(何をつまらなさそうに座っているのですか)。

●つかます

 「捕まえる」。例:「わし、つかいまいてみられ」(私を捕まえてみなさい)。

●月世界

 月世界本舗というところから「月世界」というお菓子が出ている。メレンゲに和三盆糖を加えて固めたお菓子で、さくっとした歯触りでありながら、口の中でふわっと溶ける食感がある。「暁の空に浮かぶ淡い月影にも似て月世界と名づけられました」という。軽いので持ち運びに便利だが、お土産にするとあまり高いと分かってもらえないのが難点。

 小学2年から5年時に、富山ですごした作家の恩田陸が「月世界」という文を『小説以外』(新潮社)で書いている。和菓子が苦手だったが、「月世界」は食べることができたという。

 もっとも、それはあんこものではなく、砂糖菓子とでも言うべきか、ウエハースのような形状をした、真っ白な軽いお菓子だった。「月世界」という綺麗な名前で、淡い紫色の箱にはウサギの絵がついていた。かりっと囓るとサッと舌の上で溶ける。その店では、作る途中で出た切れ端や割れたものを、白い紙袋に入れて安く売っていたので、近所の人はお使い物ではなく家で食べる分はそれを勝っていた。

 今でも「月世界」と呟くと、静かに降っていた富山の雪と、当時読み始めたSF小説の中の世界と、舌で溶けるお菓子の味が地続きになって頭の中に広がる。

 富山とは全く関係のない、川上弘美にそのものずばりの「月世界」という短編がある(『ざらざら』マガジンハウス)。祖父母が富山市出身で、父も富山市内の小学校に通ったことがあるそうだ。

 お湯をしゅんしゅん沸かしてマグカップで溶かして飲んだら、すごくおいしかった。思いついて、お茶受けならぬスープ受けに、らくがんを出した。「月世界」という富山の銘菓である。木戸さんが最後のほうでドアにさげていってくれたおみやげだ。
「げっせかい」千寿ちゃんはらくがんの箱に書いてある字を、声に出して読んだ。
「違うんだよ、つきせかい、って読むんだよ」
 ふうん、と千寿ちゃんは言った。つきせかい、は、木戸さんが大好きなお菓子だった。まだしょっちゅう会っていたころ、富山に出張したときには必ず買ってきてくれて、わたしの部屋で一緒に食べた。【…】

 残った月世界をあらかた食べてしまってから、千寿ちゃんは帰っていった。【…】

 まだ開いていなかった段ボールのテープをはがしながら、わたしは一片だけ残った最後の月世界を手に取った。舌の上で、月世界はかさりと溶けた。口の中に広がる淡い甘みを、わたしは長いあいだ、味わっていた。

 『作家のおやつ』(平凡社)で月世界をあげているのが3人いて、久世光彦、瀧口修三は富山出身だからわかるが、鳥取出身の写真家・上田正治もおみやげの一つにあげていた。この中で仏文学者の巌谷國士がこんな風に書いている。

 瀧口家におやつの習慣があったかどうかは知らない。ただ、四十歳年下の食いしん坊の若造だった私が和菓子まで好きだとわかると、それをよく出してくれたばかりでなく、折にふれて送ってくれることさえあった。幾度かとどいた小包は、とうに捨てたはずの故郷・富山からのもので、なかには月世界が入っていた。この真っ白で端正で、表面はやや歯ごたえがありながらもふんわり柔らかで、文字どおり口の中で溶けてしまう銘菓について、私が「白兎のゲッセカイですね」というと、綾子夫人は「そうです、でもツキセカイと読むらしいですよ」と教えてくれた。

 いまでもたまたま月世界が目の前にあると、きまって瀧口夫妻のことを思い出す。そして、単純で鄙びていながらもすっきりと優雅なその姿が、不思議なオブジェのひとつに見えてきたりもする。

 ハイドンの『月の世界』というオペラを上演する時に補助を出してもらったことがある。

●「月のさかな」

 富山市宮野小学校6年の追本葵が書いた小説で第一回「12歳の文学賞」大賞を受賞した。全国の小学生が応募した二千二百五編の中から選ばれ、小学館「小学六年生」4月号に掲載された。

●つくつく

 「先が尖った様」を指す。例:「鉛筆、つくつくに削らんにゃんどうするがね」(鉛筆の先が尖ったようにしないとダメだよ)。

●つくりもん

 9月23日、24日に福岡町で「つくりもん祭」が開かれる。300年の伝統があるというが、野菜で人形を作って飾ったもので、アルチンボルト的世界が広がる。

●つけとどけ

 嫁の実家から婚家に届けるもの。中元や歳暮はもちろん、結婚した最初の年末にブリを届け、男の子が生まれたら天神様、女の子が生まれたらお雛様などと負担が大きい。

●都合

 「具合」の意味で広く使われる。例:「体ぁ、都合悪てぇ、病院行けんが…」・「車、どこ、都合悪いちゅがいね」(車のどこが故障しているというのか)。

●つごもり大市

 城端で約三百五十年前に始まるとされる市。つごもりは「月末」の意味で雪が少なくなった毎年2月末、五箇山の人たちが和紙や繭を城端地域の問屋に卸しにくるのに合わせ、市が立ったのが始まりと伝えられている。

●辻

 「辻」は道を表すシンニョウと交差する意味の「十」の組み合わせで作られている国字である。金沢は城下町で、三叉路が多いが、十字路である武蔵ヶ辻というのがあるが、富山で辻はあまりないように思える。

●土人形

 富山土人形といって、素朴な人形である。呉羽にある民俗民芸村に行けば、手作りさせてくれるところがある。

 嘉永年間(1848-54)に藩主・前田利保が名古屋の陶工・広瀬秀信を呼んで焼かせたのが起源である。雛人形や狛犬などが多かった。明治時代が最盛期だったが、廃れていた。最後に残った渡辺信秀さんの技法を伝えるために講座を開いて伝承している。

 昔は鯨の膠(にかわ)を混ぜた泥絵の具が使われていたが、入手が困難で昔の照り(赤と紫)がなくなったという。

●つっこむ

 「突き指する」。

●つつじまつり

 高岡市笹八口の水道つつじ公園で開かれる高岡つつじまつり。園内にはピンクや白、赤のツツジ約7500本が植えられている。

●つながる

 「つかまる」例:「じいちゃんに、ちゃんとつながっとられか」(じいちゃんにちゃんとつかまっていなさい)。

●つべつべ

 「つるつる」と「すべすべ」。「つべこべ」の意味でも使われる。例:「あんたぁ、40過ぎとるがにぃ、肌、つっべつべやぜ」(あなたは、40歳を越えているのに肌がつるつるしてますね)・「なーん、つべつべとしゃべっとるが」(何をつべこべ色々と話しているんだ)。

 入浴剤に「つべつべ宇奈月」というのがある。深層水から作った塩と宇奈月温泉の温泉水を保湿成分として配合。「つるつる」「すべすべ」を意味する方言を商品名にした。

●つべつべ

 「ぶつぶつ」(文句を言う)。例:「なに、つべつべというとるがけ」(何を文句言っているんですか)。

●つぶろまん

 つぶろまんは射水市だけに栽培されるイチゴ。農協婦人部で活動していた人が92年、黒河地区の女性6人と「いちごグループ」を結成。95年に「つぶろまん」と命名され、品種登録。98年に女性たちによる生産販売組織をつくり共同販売にも着手した。

●つまつま〜つまつまと〜つんまっと

 「じっくりと、地道に」だが「いつまでつまつまと考えとんが」(いつまでぐずぐず考えているんじゃ)というように否定的にも使う。。例:「つまつま、暮らしとりますじゃ」(地道に暮らしていますよ)。

●つまんこ

 駄菓子屋の「籤」。ハズレは「スカ」と書いてあった。

●梅雨

 富山の梅雨は平年で6月10日から7月22日にかけてで結構長い。前田普羅に「薬師立山しばらく見えし梅雨入哉(つゆいりや)」というのがある。

●つらにくい

 「(非常に)憎い」。例:「つらにっくいことばっかり言う人やちゃ」(憎いことばかり言う人だよ)。

●剱岳【つるぎだけ】

 剣岳。(標高2998メートル)は登頂不可能な急峻とされ、近代に入ってからの初登頂は1907年(明治40年)。その一行は頂上で古代の槍(やり)と錫杖(しゃくじょう)を発見する。修行僧の強い信仰心の証(あかし)にほかならず、古来から人々にあがめられていたことを示していた。

 これまで標高が2度変わって「不遇の山」と言われてきた。2004年に従来の2998メートルから2999メートルにすると発表されたが、剱岳の標高変更は36年ぶり。剱岳の標高は、1907年(明治40年)の初測量時に2998メートルとなり、30年には3003メートルと大台に乗り、68年には写真測量で再び2998メートルとなった。

 越中国守だった大伴家持が万葉集に詠んだ「立山賦(たちやまのふ)」は、立山連峰をたたえた歌とされる。しかし、深田久弥は『日本百名山』で「太刀(剣)を連ねたさまは、剱岳以外には考えられない」と反論する。

 語源に関しては正しいかどうか分からないが谷有二『山名の不思議』(平凡社ライブラリー)に「剣が立山か、立山が剣か」という章がある。

 明治40年、陸軍参謀本部陸地測量部測量官、柴崎芳太郎が政府の命を受けて登頂したが、資材の運搬ができず、設置できなかった。その様子は直木賞作家新田次郎の『剣岳・点の記』にも書かれていて、神の山を冒涜するなと邪魔をされた話も書いている。

 【宇治】長次郎は、なんにもいわず、岩壁に取りついた。手はすいと伸びた、足もよく動いて、ちょっとした岩の出っ張りや窪みにぴたりと吸いついた。長次郎はなんのためらいもなく、岩場を攀じ登っていった。動きがリズミカルになると速度を増した。−岩壁を攀じ登ったところは、目もくらむばかり明るい岩尾根だった。太陽が頭上に輝いていた。すぐ先に雪田があり、その向うに、剣岳の頂上の丸みが見えた。雪田から頂上までは岩壁だったが、今度は、はだしになるほどのこともないように見える傾斜面だった。−頂上は意外に広々とした岩石の丘だった。大小無数の岩石が重なり合いながら、絶頂に向ってゆるい傾斜を作っていた。−そこは日本中の山が一望のもとに見えるほど高いところに思われた。遮るものはなに一つとして無かった。どの方向もすばらしい景観にあふれ、区々としては目をひくものはなく、弾き返すような勢いで全体として迫っていた。なにか壮大な景観に圧倒されて眩暈がしそうに思われた。

 以降も、何度か埋設案が出たが、60キロある基準石を運ぶ労力や山頂が国立公園内であることなどがネックとなり断念されてきた。2004年に念願の三角点を埋設することになった。

 2003年、上市町は町発行の地図や要覧、印刷物などで統一されていなかった町のシンボル、剣岳の表記を「剱岳」と統一し、国土地理院や関係機関に働き掛け、国土交通省国土地理院北陸地方測量部(富山市)が町の要請通り、剣岳、前剣、剣御前の三カ所の「つるぎ」を「剱」に統一することになった。剣岳の表記をめぐっては、これまで「剣、劍、劔、劒、剱、釼」などが使用されている。町議会では、明治、大正時代の陸地測量部の地図などを踏まえ、1989年の3月定例会で、同町馬場島の「剣岳青少年旅行村」の「剣」を「剱」に改める条例を議決。ふもとで体験活動などを行う学校教育の場でも「剱岳」を固有名詞として指導している。

 国土地理院北陸地方測量部は剱岳など北アルプスの4カ所の漢字表記を「剱」に修正した2万5千分の1地形図を2004年1月1日から刊行しはじめた。この修正で、小中学校の地図帳や理科年表なども「剱」に統一される見通し。

 ところで、山を表す言葉に「岳」と「山」があって前者は九州などに多い言葉なのだが、富山では「剱岳」「薬師岳」などと「立山」「大汝山」など混在している。どう違うのだろう?

●つるわた

 「真綿」で「紡ぎ真綿」が縮まったか?僕は使わないが、おばあちゃんたちが使う。

●つんだつ

 「連れ立つ」で「付いていく」。「つんだったらく」(連れだって歩く)「つんだってーく」(連れだって行く)などのバリエーションがある。例:「お前、何、おらのこと、つんだったらくがいね」。

●つんまげる

 「曲げる」。例:「袖、つんまがっとるぜ」(袖が曲がっていますよ)。

●つんまっと〜ちんまっと〜つんまり〜つまつまと

 「じっくりと、地道に」で質素で平穏なさまを表す。小野正弘の『オノマトペがあるから日本語は楽しい』(平凡社新書)には富山の代表的なオノマトペとしてあげている。例:「つんまっと作っとったら、何とかできたちゃ」(じっくりと作っていたら、何とかできたよ)・「なんちゅう、かたい子ね、つっまっと勉強してはるねけ」(なんというおとなしい子どもでしょう。じっくりと勉強していますね)。

●つんまめ

 「つるまめ」。


英語

数字

序文

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