金川 欣二:マックde記号論(言語学のお散歩)


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Bringing Up Babies with Mac
or
The Two Bit Apples!
by Kinji KANAGAWA
Macintochan Japan, Inc.


 

はじめに

 

 このエッセーはパソコンと僕の二人の子供(そして学生たち)との関わりを描いたものである。僕には「育児をめぐる冒険」というのと「子供たちの時間」「大人は判ってくれない」という子育ての3部作のエッセーがあり、これの番外編になる。

 エッセーの中の「うちのパソコン・キッズ」は『ASAhIパソコン』の懸賞エッセーの優秀賞に選ばれたもので、100万以上浪費した放蕩息子のマックが初めて5万円稼いだものである。

 パソコンで子育てというと英才教育だと思われがちだし、実際、多くの人にいわれた。僕にはそういう気持ちはまったくなくてむしろ、うちはあまり英才教育に力を入れていない(と思う)。

 英才教育というのは小さいころから特別に英語を教えたり、漢字を教えたり、公文などの問題集をたくさん解いたり、スイミング教室に通ったりというのだと思う。幸か不孝か、僕はそんなことには興味がないし、小さいころに英語を仕込むことがいいこととは思えない。どちらかというと反対である。早期教育を施して漢字は上手になったが、絵が描けなくなったとか、チックになったという話も聞く。幼児期は知的発達と情緒的発達を分けることができないからだ。だから、これは英才教育を施そうという人に無意味なエッセーである。

 僕自身、そんな風に育たなかったし、育ったから賢くなったとも思えない。ただ、田舎に育ったので知的刺激がもっと欲しかった、ということはある。映画でも本でももっとたくさん近くにあったらもっと違った職業についていたと思う。知識はあってもイマジネーションが足りない、と反省することも多い。子供にはいろいろな刺激を与えていき、何よりも想像力と感性に富んだ子供に育って欲しいと思っている。「オズの魔法使い」みたいな映画を見せるのも感性を育てる方法の一つだが、それは別のエッセーに任せて、ここではパソコンと教育に絞って論じるつもりだ。

 ジャンルとしてはエデュテインメント(Edutainment)と呼ばれる教育とエンターテインメントの両方に関わる事柄なのだけれど、実際にEdutainmentを十分満たしているソフトは少ない。少ない中から子供たちとの関係を描いていこうというのだ。科学も教育も楽しくなければなければ意味がないのだ。

 パソコンによる教育には弊害も多いだろう。佐伯胖東大教授は次のようにいう。

コンピュータやマルチメディアをうさん臭いと思う人々の感覚は正しい。人はときに情報を遮断して自己形成を図る時期が必要だ。コンピュータ教育を推進しようとする人々は謙虚にそうした声に耳を傾けるべきだ。いまこそ教育は徒弟制度の持つよさを見直す必要がある。


 たくさんのソフトで育つことが子供たちの人生にプラスかマイナスか、今の段階では分からない。フィルターも付けた。サッカーボールを祐貴にプレゼントした。僕としては最善を尽くしたいと思うのだ。

 子供とパソコンの関わりに関してはアメリカでは研究が盛んで僕も時々,Judy Salpeter;Kids and Computers(SAMS) という本を参考にしている。83年にファミコンができて10年がたち、たくさんの研究がなされているが定説というのはない。害もあれば益もあるという単純な結論が多い。多くの研究結果は子育てをしていれば予測できる範囲に留まっている。たとえば、パソコンを使い過ぎないかという疑問に対してはすぐに飽きるから心配ないとか、親と一緒に勉強する態度が大切だとか…。

 だからいっそ、テレビが1台増えたくらいに気楽に考えておいたほうがいい。ただ、遊び道具でしかないが、自分の能力以上のことができる道具でもある。要は使い方である。

 実際、テレビが普及した時もテレビの功罪をめぐって論議がなされた。簡単にまとめておくと次のようになる。パソコンに関しても同じような面が指摘されると思う。

●テレビのよい面

●テレビの悪い面

 子供たちの生活から現実の体験が急速に消え、テレビをはじめとする間接的な体験、コンピューターをはじめとする擬似的な体験ばかりが子供の世界を形成している。

 今は携帯電話が叩かれているが、電話だって、電子レンジだって、出た頃は大いに問題のあるものだった。そのうち、ファミコンがレトロになる時代が、すぐにやってくる。

 既にテレビをなくすことはできない。パソコンもなくせなくなるだろう。テレビやパソコンとだけ相対することは閉鎖的であり、発展性のないことだと思う。間接的な経験の拡大が子供の感性に広がりと想像力の幅を広げ、情操を育てるのにプラスの可能性をもつことを信じたい。


 山田冨美雄が大人のVDT作業時間管理の勧告に合わせて作ったテレビゲーム用に作ったガイドラインがパソコンにも当てはまると思うので示しておく 。

 97年12月16日には当時大流行していた「ポケモン」のテレビで数千人が気持ち悪くなり、700人もの子供が病院に運ばれるという事件があった。

 点滅させる画面構成がよくなかったようだが、テレビを見ているから安心などとは言ってられいられない状況になった。

 高級な玩具を与えすぎている批判もあるかもしれないが、パソコンを子供専用にしているわけではない。家族の使っている道具の一つである。まして、10歳から12歳の男子のテレビゲーム所有率が91%で後戻りはできない。それに物持ちの子供ほど父親とのコミュニケーションが密接だという調査もある(くもん子ども研究所編『今どきの子はこう育つ』)。

 子供はパソコンの天敵(予算を握る配偶者は強敵)という心配もある程度は当たっているが、1歳から子供に使わせていて数度はメマイすることがあるが、自然に使い方を学んでいくもので心配はない。ただ、馴れていない、子供の友達に触らせるのは危険だ。

 パソコンを知らない人にも分かるようになるべく難しい専門用語は避けたつもりである。でも、アイコンとかハードディスクとか最小限は説明のためにそのまま使っている。読んでいるうちに分かるようになるはずだ。


 家庭状況を少し説明しておくと一般言語学が専門の僕と11歳年下で声楽家【ソプラノ】の妻が一人いて、89年5月生まれの祐貴(ゆうき)と92年5月生まれの未蘭(みらん)がいる。スープの冷めない、というかコードレス電話で連絡できる距離に僕の両親(父は96年に亡くなった)が住んでいて毎日、遊びに来ている。

 なお、このエッセーの最初に出てくるアップル社のパソコン・マッキントッシュ(マック)LC520は恐らく史上最初のマルチメディアパソコンであった。その後、パフォーマ520 として電器店で売られるようになった。つまり、一般家庭向きの戦略商品となったのだ。更にLC575と名を変え、一体型史上最強マシーンに変貌をとげて最高機種と速さが変わらなくなり、95年半ばに14インチモニターのパフォーマ688にとって代わられた。

 前提としてカラーのマックで13インチ以上のモニター、CD-ROM(しーでぃーろむ)ドライブを前提としている。9インチのクラシックなどでは動かないソフトが結構あるし、CD-ROMがマルチメディアやEdutainmentの中核になっていくことは間違いない。マックを中心に書いてあるが、他のパソコンでも同じようなソフトが出回っていると思うので適当に敷衍、一般化して読んでもらいたい 。


 これを読んだ先生から「マック教」に染まっているといわれたが、統一教会じゃあるまいし、そんな教団はない。そういうのはマックを買えない人のひがみだ。こういう、マックに対しての誤解も多いので注意してもらいたい。マックは遅いとか、頭の悪い人のパソコンだとか、文科系のパソコンだとか、Hソフトが多いとか、アメリカ製だから壊れやすいとか、アップルはそのうちつぶれるとか、毒に当たると他のパソコンに戻れないとか 、女の子を家に誘う絶好の口実になるとか、ハンサムな人にしか使えないとか(そんなのはないか)、そういう誤解を生みやすい土壌がある。これらは僕が頭がいいという噂同様、すべて根も葉もない誤解である。でも、知名度がまだまだでマクドナルドのことだと思われることもしばしばである。タモリの「音楽は世界だ」で少し有名になったが、この番組も94年の秋で中止になった。

 猿でも使えるというのは本当である。鍵を開けて脱走したので有名なチンパンジーのアイもパソコンを使っている。そういえば、あのTバック女優の飯島アイも「特技」がマッキントッシュのコンピューターでLC520を使っていた。今度から僕も履歴書に書こうっと。


 他の有名人では俵万智がクラシックIIを使って『俵万智のハイテク日記』(朝日文庫)を出しているし、『ノルウェーの森』の村上春樹(パワーブック160とLCIII)、女優の田村英里子(カラクラIIと6100)や松尾紀子アナ(LC575)も蓮舫(PB100)、F・モレシャン、バイオリニストの五嶋みどりがいる(と書き出すところがマイナーなのだが)。まあ、どうでもいい話だ…。

 僕らを熱狂させた『知的生産の技術』の梅棹忠夫だってマック派になった。

 アフリカの水を一度飲むともう一度飲みに帰るといわれる。

 マックも同じで一度、禁断の知恵の実であるリンゴをかじると楽園から追放されてしまう。人をマックに誘う僕は蛇なのだろうか。

 このエッセーを書いたもう一つの理由が今までのマニュアルはあまりにも不親切で例えば、フリーズした(全く動かなくなる)時にどうするか、すぐには分からないようにできている。そのため、スイッチを切ってしまう人がいるのだ。これは最悪の事態を招く。最後に「これだけマック」というエッセーをつけておいたからそちらから読んでいただきたい。

 ともかく、子供とパソコンのインタラクティブ・ライフを描いていきたい。 


※このエッセーに掲載されている商(製)品名・名称・会社名などは、各社の商標・登録商標の場合があります。

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