「飛」
この文章は98年のEnglish Networkという雑誌のリニューアル創刊号の冒頭を飾った六つの文章の一つです。
雑誌の方はイラスト入りで文章よりも目立った。
新作がなかなか書けないので、古い文章でごまかします。
最近、一番ショックだった「飛」は伊丹十三監督の自殺だった。
Film director Itami jumps to his deathというタイトルで世界的に有名な監督が亡くなったと伝えられた。「死に向かってジャンプする」なんて!
伊丹は日本よりも外国で有名だった。アメリカでは特に伊丹が「ラーメン・ウェスタン」(日本で「マカロニ・ウェスタン」macaroni westernと知られているイタリア製西部劇はspathetti westernという)と呼んでいた「たんぽぽ」Tampopoが好評で、全米ヒット中の「Shall we ダンス?」の周防正行監督は伊丹の後継者と目されていた。
若い人の最近の日本語はどれも嫌いだが、気に入っているのは「きよぶたする」である。これは「清水の舞台から飛び降りるつもりで何事かをする」という言葉の省略である。
京都で地球温暖化を防止する会議が開かれた。この会議開催の新聞広告は清水寺に海水が押し寄せているCGに「塩水の舞台?」というコピーが添えられていた。
This week, as delegates from more than 170 nations meet in Kyoto, Japan, to try to hammer out a new global-warming treaty, it is clear that this cautious attitude has turned around.(TIME/8. DEC.97)
という文があるが、英語の面白さ(難しさ?)はhammmer outのように「ハンマー」のような名詞がいきなり「(苦労して)ひねり出す」という動詞になることだ。
「きよぶたする」のように「〜する」というのが日本語に混乱をもたらすという人がいるが、古語でも「男す(る)」(男を待つ、夫を持つ)という言葉が使われたし、何よりも英語はbutが動詞になる位で、ちょっと想像力を使わないと理解できないことが多い。
京都会議での新聞広告も映像化しにくいエコロジーを見事に映像化したと賞賛された。
エコロジーにも、そして英語理解にも想像力の翼をつけて飛べばケガをしない。
消極的(cautious attitude)だったアメリカにはBut me no buts.(「しかししかし」というな)と言ってあげよう。
1977年に、UFOを見たことがある。空にキラキラ光るものがゆらゆらと動いていた。目撃者も多くて、翌日も出たし、1カ月後にも現れて、NHKからも映像が流れた。NHKが流した唯一のUFO映像だと信じている。それ以後、富山はUFOのメッカといわれ、オウムの連中が坂本弁護士の奥さんを殺害して埋めたのが富山だった理由はUFO関係だともささやかれた。
「UFO」を日本人はピンクレディのおかげで「ユーフォー」と発音するが、アメリカ人は「ユー・エフ・オウ」と発音することが多い。
ある国際交流イベントで大きな空飛ぶ円盤(Flying Saucer)を作った。「あれは何だ」と外国人に聞かれて“IFO, identified flying object”というと大笑いしていた。
SFも似ていてsci-fiと書いて「サイファイ」ということが多い。
日本人は「現国」なんていうのを省略しすぎだが、アメリカだって体育をPE(Physical Exercise)とか共学をco-ed(ucation)とか「比較文学」をcomp lit(comparative literature)と言ったりする。
ロズウェル事件(Roswell Incident)というのがあった。映画『インディペンデンス・デイ』にもこの話が使われているが、今まで空飛ぶ円盤だと思っていたのが、急に「あれは実験だったんだよ」と国防省Pentagonからいわれてしまったのだ。それまでマル秘(confidential)だったのが情報公開によって明らかにされたのである。Confidentialは手紙の「親展」にも使う。「親展」って「親が展く」からだと思っている人も増えてきた(んなぁ、ことはないか)。
どうでもいいけど、困ったのは「信者」たちである。
The evidence is overwhelming," he (Friedman) insists, "that planet Earth is being visited by extraterrestrial life.(TIME June 23)"
恩師の西江雅之先生は「宇宙人なんていっぱいいますよ、だって今日も街で5人は見ましたよ」というのが口癖だった。
スピルバーグの『メン・イン・ブラック』の世界だ。
このEnglish Networkだって、宇宙人が侵略の第一歩で始めている雑誌かもしれない。
ここでextraterrestrialというのにのけぞってはいけない。ラテン語extraはintra(内、最近はintranetで使われている)に対して「外」の意味で、terraというのは「土、地球」の意味で「地球外のもの」ということだ。何のことはない、ETはこの省略形である。ただし、あの映画ができるまでは一般的な言葉ではなかったと思う。
イギリスでは未だに「地球は平たいことを信じる学会」とかがあるそうで、年1回の総会では、「私はこうして平たいことを証明した」という人が学会発表をするそうだ。
だって、丸かったら、ブラジルの人はこぼれ落ちてしまうんじゃないの。
最初の宇宙飛行士ガガーリンは宇宙にも行っていないのに嘘で固める生活が嫌で本当のことを暴露しようとしたために暗殺された、というsci-fiもある。
昔、成田空港の税関は「日本人用」Japaneseと「外国人用」Alienに分かれていた。Alienも「異なる」という意味の中立的な言葉で、哲学用語の「疎外」というのはalienationという(ウィンドウズでショートカットと呼ぶものをマックではalias(分身)と呼んでいる)。
しかし、化け物映画ができてから「俺は宇宙人か」という人がいて、foreignerもやや差別的な響き(「有害な」という意味も)があるので今はNon-Japaneseになっている。
ホントは日本人の方がよっぽどエイリアンだと思われている。
そのままにしていたらAlienの方に行け、と外国人に言われかねない。