スピーチの極意

これさえ学べばあなたは今日からスピーチの達人になっていつでもどこでもすぐに人を感動させるお話ができるようになる(はずだ)

 イギリスの作家、チェスタートンがテーブル・スピーチを頼まれて言った。

 ローマのコロシアムで剣奴(グラディエーター)がライオンと戦っていました。ライオンは剣奴に飛びかかって、まさに食べようとしました。その時、剣奴がライオンに一言いうと、ライオンはすごすごと引き下がっていきました。終わってから、何て話したのか、みんなが剣奴に聞くと、次のようにいいました。

「私を食べてもいいけれど、その後にテーブル・スピーチが待ってますよ」。


  

   

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

スピーチとスカートは短い方がいい。

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

【初掲:2000年10月1日】

仲畑貴志(パルコ)
うまくしゃべるほど、
ウソになってしまうなあ。

<スピーチについての後書き>

 上のようにだけ書いていたら、さすがに評判が悪くて、簡単に書いておく。基本は講演と同じなのだが…。

 本当はスピーチもスカートもなければ一番いいと思っている。実際のヴァリエーションは「政治家のスピーチとスカートは同じだ。どちらも肝心のところが見えない」というものだ。「いい説教というのは始めと終りが感動するものでなければならない。そして始めと終わりの間が短ければ短いほどよい」というのもある。ライト兄弟の兄は、なかなか機知に富んでいた。飛行成功後にスピーチを求められると、立ち上がって「みなさん、おしゃべりな鳥オウムは、上手に飛ぶことができません」と話を短く切り上げたという。

「簡潔こそは知恵の魂、冗漫はその手足」
『ハムレット』第2幕第3場

  • 短く(とにかく短く)。小泉が貴乃花が優勝した時に言った「感動した!」が典型。前の人が長ければなおさら短く(「人民の人民による人民のための政治」というリンカーンのゲティスバーグの演説が成功したのはレトリックもあるが、前の人の演説が長かったからだ。国有墓地の奉献式で追加的に行われた挨拶でメーンの演説は、雄弁で名高いハーバード大元総長が2時間も行った。リンカーンはわずか272語で3分間で、写真班がレンズの焦点を合わせているうちに終わった)。イギリスの首相ロイド・ジョージも「3分で話せないことは1時間かけても相手に分かってもらえない」と言った。ロシアの諺にも「縄は長いほど良い、スピーチは短いほど良い」という。
  • 言いにくい表現は何度も練習するか、別の表現に変えてしまう。だって、自分の原稿なんでしょ。
  • アメリカでは大統領の言葉が文学として扱われている。ゲティスバーグの演説は失望で受け止められ、拍手もなかったという。親友のラモンにリンカーンは"Lamon, that speech was like a wet blanket on the audience. I am distressed by it." (濡れた毛布は火事を消すことから「白けさせるもの」の意)と言ったことが知られており、今目にする原稿は後に改訂されたものらしく、注目されたのは新聞に載ってからだという。
  • 最初が大事。ケネディはコツを「スピーチの直前にジッパーをチェックすること」と言った。
  • 「在任期間は最短で、就任演説は最長」という記録をホワイトハウスに記した大統領もいる。1841年3月4日の第9代大統領就任式で権力の座を手にしたウィリアム・ハリソンはよほどうれしかったのだろう。68歳の高齢にもかかわらず、雪が舞い、北風が吹きすさぶ悪天候の中でコートも着ずに、2時間近くも就任演説ををした。案の定、翌日からひどい風邪をひいて病床に倒れ、一度も執務することなく、一か月後には肺炎で死んでしまった。ハリソンの不運は「長広舌は身を滅ぼす」教訓となった。
  • アメリカ28代大統領ウィルソンは知人から「10分でいいから何か講演をしてくれないか」と頼まれて「2時間の講演なら今すぐできる。1時間なら、準備に2時間かかる。15分のスピーチなら、準備に半日が必要だ」 と答えたという。
  • ニクソンの『指導者とは』(文芸春秋)に書いてあるが、英首相のチャーチルはスピーチの名人だったが天性に恵まれた訳ではない。後年、チャーチルの息子は父の演説を絶賛されるとこう応じた。「当たり前ですよ。父は人生の花の時代を演説の草稿書きとその暗記に費やしたんですから」。
  • そのために何でも話そうと思うな。捨てろ!←といいながら一番難しい。
  • NHKのアナだった鈴木健二は2分が限度、姿勢が大切、心を開いて相手に迫るといい、文章は「不要と思われるものはばっさり切ってしまい、自分だけの財産を使って一生懸命話すのが、心のこもったスピーチ」といった。
  • 社交とは会話の芸だというのは西欧の常識である。
  • ジョークを!笑いを!(みんな知っているようなのはダメ)
  • 三谷幸喜が「人を泣かせる野菜はありますが、人を笑わせる野菜はまだ発明されていません」といって、タマネギをポケットから出したという。そして、グルーチョ・マルクスからの引用だと話したそうだが、これは"An onion can make people cry, but there has never been a vegetable invented to make them laugh."でWill Rogersの言葉である。淀川長治の「私は嫌いな人とまだ会ったことがない」の「原作」のユーモア作家である。
  • 誰も知らないような小さなエピソードから大きな結論に導く。
  • 格言などを使う場合もエピソードから始め、格言だけで終わらない。
  • 一つだけ(多すぎてはいけない)必ず関係者を誉める。
  • 前の人と重ならないようにネタを2種類用意しておく(または前の人にどんな話をするか聞いておく)。
  • 下ネタは絶対に止めよう(→テーブル用に取っておこう)。
  • (インフォーマルな儀式で)爽やかならば地口落ち(駄洒落)で終わっても構わない。
  • 忘れそうだったらカンペを用意した方が安全(忘れそうなものだけは書いておく)。
  • 最低なのは「僭越ながら」といって、長々とスピーチをする奴。「そういえば」といってキリもなく話が広がっていく奴。持ち時間を考えない奴。
  • 来賓などへの感謝は簡単に(オチがある場合はなるべく最初の方で)。
  • 自信がなかったら事前に人前(家族の前)で練習しよう。松田道弘の『ジョークのたのしみ』(ちくま文庫)には「もし、あなたのジョークで奥さんが笑ったとしたら、それはよっぽどよくできたジョークか、よくできた奥さんに違いない」という。
  • 結婚式などは忌み言葉にも注意する。
  • ネタがなかったら観客が関心をもつことを縦糸と横糸に喩える。言葉が縦糸で文化が横糸で織物のように社会が形成されていて、どちらも大切にしないといけない…。
  • ヴォルテールもいうように「話をつまらなくする秘訣は、すべてを語ってしまうことだ」。だから、余韻を持たせて終わろう。
  • 明るい話(せめて明るい展望がある話)で終わるようにしよう。
  • 村上龍は『無趣味のすすめ』(幻冬社)でダメなリーダーに共通する特徴を「訓示や演説や会見において主語と樹靴がはっきりせず修飾語を多用するのもその一つで、最近だと、『命がけで』『しっかりと』『きちんと』『粛々と』などが流行っているようだ」という。
  • 失敗しても人柄でカバーしよう。アリストテレスは『弁論術』で言論を通じて行われる説得の第一に人柄をあげている。「人柄の優れた人々に対しては、われわれはだれに対するよりも多くの信を、より速やかに置く」と言い、「論者の人柄は最も強力と言ってもよいほどの説得力を持っている」と断言している。
  • 大事な国際会議に遅刻して、自分の発言に許される時間が予定の半分しか残っていない。そういう時は…。
  • アメリカ人なら、内容を薄めて話すことによって時間内に収める。
    イギリス人なら、いつもの速さで話して時間が来たらやめる。
    ドイツ人なら、2倍の速さで話して時間内に収める。
    フランス人なら、次の発言者の時間に食い込んでも話すのをやめない。
    イタリア人なら、無駄なジョークを言うのをやめれば時間内に収まる。
    日本人なら、遅刻の経緯と、お詫びの言葉に残り時間を使ってしまう。

  • 型にはめながら、外す。2009年にオバマが初来日した時にスピーチの冒頭が次のようである。「抹茶アイス」「小浜市民」!

     It is wonderful to be back in Japan. Some of you may be aware that when I was a young boy, my mother brought me to Kamakura, where I looked up at that centuries-old symbol of peace and tranquility -- the great bronze Amida Buddha. And as a child, I was more focused on the matcha ice cream. (Laughter.) And I want to thank Prime Minister Hatoyama for sharing some of those memories with more ice cream last night at dinner. (Laughter and applause.) Thank you very much. But I have never forgotten the warmth and the hospitality that the Japanese people showed a young American far from home.

     And I feel that same spirit on this visit: In the gracious welcome of Prime Minister Hatoyama. In the extraordinary honor of the meeting with Their Imperial Majesties, the Emperor and Empress, on the 20th anniversary of his ascension to the Chrysanthemum Throne. In the hospitality shown by the Japanese people. And of course, I could not come here without sending my greetings and gratitude to the citizens of Obama, Japan. (Applause.)

  • 丸谷才一は必ず原稿を用意していた。『あいさつは一仕事』の和田誠との対談での心得である。

    ○原稿を作って準備する
    ○長過ぎるのはダメ
    ○余計な前置きを入れるな
    ○引用はひとつにせよ
    ○おもしろい話を入れよ
    ○ゴシップを有効に使え
    ○悪口を言うなら対策を考えておけ

     みんな原稿を用意しないから、思い出して収拾がつかなくなる。メモも持たない人がいるから腹が立つ。原稿を読むのが下手ということもあるし、勢いがなくなる、なんてこともある。ただ、スピーチは出たとこ勝負の相撲じゃない。日本人はもっと工夫すべきだ。

  • 村上春樹『雑文集』(新潮社)から安西水丸の娘さんの結婚式に寄せたメッセージである。
     かおりさん、ご結婚おめでとうございます。僕もいちどしか結婚したことがないので、くわしいことはよくわかりませんが、結婚というのはいいときにはとてもいいものです。あまりよくないときは、僕はなにかべつのことを考えるようにしています。でもいいときには、とてもいいものです。いいときがたくさんあることをお祈りしています。お幸せに。

  • <乾杯についての後書き>

  • 紅野敏郎の回顧によれば、作家の井伏鱒二は人前で喋るのが苦手だった。スピーチはしなかったが、乾杯の音頭が回ってくると仕方なさそうに「乾杯」とだけ言った。
  • 観客がうるさい時に、永六輔は「ただ今臨時ニュースが入りました。金さんと銀さんは本日正午……」そこまで言ったらみんなシーンとしたそうだが、「お二人ともお元気で昼ご飯を召し上がったそうであります」と言ったら、みんなが笑って静かになったそうだ【当時、百歳の双児の金さん銀さんの健康問題が話題になっていた】。

  • <アジテーションについての後書き>

     アジテーションの文体は別である。「我々は〜!」と叫んでも誰にも届かない。誰の心も響かせない。

     高村薫は「宰相小泉の空虚なる語法」(『文藝春秋』2001年8月号)に小泉純一郎総理の語法の特徴は「簡潔、断定、すり替え、繰り返し」と結論している。ヒットラーはどんなウソでも繰り返していれば本当だと信じ込ますことができると語っているが、全く同じだ。


    <付録:弁論大会必勝法>

  • Be Puncutual! 時間制限がある。厳しく減点されることも多いので概ね8割〜9割になるようにまとめる。7分の決まりがあれば、6分30秒を目途に話を作る。
  • 最初に長い原稿を作って削っていく(引き算であって、足し算ではない)。
  • 僕の場合は笑いをいっぱいにする。笑わせた方が勝ちだと思っている。笑わせて最後に「日本人はダメだ」みたいに終わることもできるが、体質に合わない。
  • 順序を工夫する。効果的に流れるようにする。
  • キーワードを3つほど入れる。観客の知らない(説明が必要な)キーワードは1つに絞る。
  • 後でどんな内容だったか観客がスピーチを聞いていなかった人に伝えられるように工夫(「スピーチのお土産」を用意)。
  • 最初の小さなエピソードによる伏線が最後の結論「大きな物語」につながるように工夫。
  • 同じ言葉が最後には違う大きな意味になるように持っていければ最高。
  • Be Specific! なるべく具体的なエピソードや名前をあげて話す。「あるところである人が…」と昔話にしない。
  • 事実が全てを語る。だから抽象的な話は結論だけで話す。
  • (見え透いていて嫌いだが)外国人であろうと、日本人であろうと少し方言を入れた方が効果的である。一カ所だけにしよう。
  • 歌えるなら歌も歌った方がいい。(規定にもよるが)見せるものがあったら、見せてもいい。
  • 原稿は完璧に覚えること。しかし必ず持っていくこと。飛んでしまって、焦るとお仕舞いだからだ(そんな人を何度も見てきた)。
  • 原稿は演台の上に置いて見えないようにする。1枚読み終わると横にずらす。上にめくると見ているという感じがでてしまうのでよくない。
  • Be Natural! 弁論大会独特のねちっこい話し方はさせない。自然に話させる。
  • 当日の服装は大人にチェックしてもらう(審査員は年配が多いので、不快感を与えない)。
  • 当日は早めに行く。できれば、誰もいない演台でリハーサルをする。
  • 内容にも話し方にも緩急を入れる。
  • 観客が受けて笑っていたら、笑いが静まるまで待つ。笑い声にスピーチを重ねない。
  • ゆっくり話す部分では観客を見る。パラグラフごとにdeliverする気持ちを忘れない(言葉の小包を贈る!)。
  • 話が飛んでしまった場合、戻っても構わないが、おかしくないと判断できたら、そのまま続ける。
  • Be Careful1 キーワードは絶対に落とさないようにする。飛ばないようにキーワードはしっかり蛍光ペンで印を付けるなど工夫をする。原稿のどの辺りを読んでいるのか時々確認する。
  • 自信をもって話す。ゆとりを持てるように何度も練習して努力する。
  • 必ず事前に人前で話すこと。特に大勢の前で話すこと。「芸術は爆発だ」ではなく「芸術は場数だ」なのだ。
  • どんな不幸な話で同情を誘う相手が出てくるか分からないので、最初から優勝は狙わない。2位を目指す。
  • コンテストは総合点なので、審査員にも審査委員長にも結果を予想できない。意外性がつきまとう「出物腫れ物」なのである。
  • 思いがけず負けてショックを受けても、それほど大きなショックを受けるほど努力した自分を誉める。
  • 辛いけれど、次回を目指す。辛いことがあっても、「これはネタに使える」と思うようにして、前向きに生きる。
  • 笑顔!笑顔!笑顔!

  • 井上一馬『後世に伝える言葉』

    僕の本
      


    ■日本一詳しいスピーチ・リンク集(“ちょっと変わったスピーチ講座”として紹介)


    ●関係者の7分間スピーチ例(僕が関係した弁論大会など)

    □婦人意見発表大会97「ボランティアは母親から」

    □外国人による日本語弁論大会

    □ボランティア体験文


    □実り豊かな講演のための“紙”上講演
    □ウェブライターを目指して
    □人生は自己表現の芸術


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